最近、20代カップルの約5割がマッチングアプリをきっかけに知り合っている、という話を耳にして、少し驚きました。それでは、同じくマッチング稼業である転職エージェントも、今後はアプリやAIに取って代わられるのでしょうか?
実は私がかつて在籍した大手エージェントでは、過去何度もAI的なマッチング機能開発に大金を投じてきました。新サービスがカットオーバーされる度に、毎度期待を集めるのですが、当時は一度もまともに使えるものにはなりませんでした。転職先選びや人材採用は、マッチングに影響を与える変数が非常に多く、次に読む本をお勧めするのとは「複雑」度合いが全く異なるからではないかと思います。
一方で最近のAIの進化は目覚ましいものがあります。これまで機械(AI)に置き換えることが難しいとされてきた分野でも、次々に驚くような成果が報告されています。
チェス、将棋はもとより、複雑度が段違いの囲碁においても、AIが世界のトッププレイヤーを破ったのは既に数年前ですし、創造性が必要と言われる文学や音楽の世界でも、AI作家やAI作曲家が芸術作品を生み出しています。
では転職エージェント業界も、近い将来AIに取って代わられ、我々の存在価値はなくなるのでしょうか?私は、少なくとも当分の間は、そのようなことは起こらないと思っています。
野村総研の上級コンサルタント上田恵陶奈氏によれば、今後AIなどによって自動化しやすい職業の特徴として、以下を挙げています。
・創造性(芸術性だけでなく抽象的概念を整理、創出することを含む)が不要
・ソーシャル・インテリジェンス(他者と協調、説得、交渉するスキル)が不要
・臨機応変な対応が不要でマニュアル化しやすい定型的業務
我々の仕事が「芸術的」と言うつもりはありませんが、一定以上のソーシャル・スキルを必要とすることは、間違いないと思います。また扱う対象が、人(ココロ)という、必ずしもロジカルではなく、むしろかなり感情に左右される曖昧なものだけに、非定型で臨機応変な対応は日常茶飯事です。
恐らく求職者がエージェントに求める機能とは、単に自分に合った求人情報ではなく、情報をどう解釈するかという、代理人としての客観的視点なのではないでしょうか。
求職者に異なる観点での気づきを与えたり、会話を通して思考の整理を手伝う「壁打ち」の役割です。また多忙なビジネスパーソンの転職活動は、身体的・精神的にしんどい時期もあるため、背中を押す励ましや、がんばりを賞賛する労いなども、求められていると感じます。
ただ私も、転職エージェントの仕事が全く変化しないとは考えていません。マッキンゼー社のレポートによると、世界に存在する職業の約60%は、少なくとも3割程度のタスクが技術的に自動化可能だそうです。
我々の仕事もAIによって、よりスピーディーに、より精度高く進化できる部分と、簡単には代替できない部分が存在し、そのグラデーションが変化していくのではないか、と予想しています。思えばこれまでも、PCやスマホや、エクセルもZOOMも、新しいテクノロジーは常に取り入れて仕事を進化(改善?)させてきた訳で、その程度が変わっていくのだと思います。
AI時代の到来について、人間の仕事や尊厳が失われる、という言説を見かけることも多いですが、恐らくこれから起こる変化というのは、「AI 対 人間」ではなく「AIを使える人間 対 そうでない人間」という構図の加速という気がします。
私も、最新のテクノロジーはとり入れつつ、求められる価値の本質を見失わないよう、顧客と向き合っていきたいと思います。
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